RESEARCH

ヒト正常肝臓、疾患肝臓での免疫応答制御機構解明

肝臓は門脈を介して常に腸管由来の物質に暴露されています。免疫システムは肝臓内で様々な病原体に対する免疫応答を活性化させる一方で、免疫応答を起こすべきでない物質、例えば消化管内常在菌由来物質や栄養素など、に対しては免疫応答を抑制しています。肝臓は一般的には他の臓器に比べて免疫応答抑制の強い(免疫寛容な)臓器とされており、肝移植後に免疫抑制剤から離脱できる症例も少なからず見られます。しかしヒト肝臓局所で免疫応答がどのように制御されているのかほとんど知られていません。肝疾患での免疫研究に血液検体が多用されてきた経緯も関係していると考えられます。本研究では、肝胆膵移植外科、消化器内科、病理部門などと連携し、ヒト正常肝臓検体、疾患肝臓検体を用いた基礎的、臨床的免疫研究を展開します。具体的には、①慢性B型肝炎ウィルス感染症でなぜHBs抗体が産生されないのか、その免疫寛容メカニズムの解明、②免疫抑制機構の強い肝臓でなぜ原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎などの自己免疫疾患が生じるのか、を解明したいと考えています。他には先天性胆道閉鎖症など従来免疫のあまり関与していないと考えられている疾患でどのように免疫機構が関与するか等も研究しています。

ヒトがん微小領域での免疫応答制御機構解明

がん免疫療法はがん細胞に対する免疫応答を強めることでがん進行の抑制、がんの消滅を目的とした治療法です。最近の10年間でCTLA-4やPD-1などの免疫チェックポイント分子に対する阻害ががん免疫療法に有効であることが明らかになり、PD-1発見者である本学の本庶佑先生は、米国J. アリソン先生と共に2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞されました。しかし、免疫チェックポイント阻害で反応する症例は限定されており、より強力な抗がん免疫応答の誘導が望まれています。本プログラムでは、産婦人科、肝胆膵移植外科、泌尿器外科、小児科、小児外科、病理部門などと連携し、子宮体癌、肝細胞癌、肝内胆管癌、肝芽腫、神経芽種、尿路上皮癌検体(令和4年現在)を用いてがん局所微小領域での免疫細胞の解析を行っています。私たちはどのようにすれば抗がん免疫が賦活化されるか、一方でどのようにすればがんによる免疫抑制を解除できるか、を解明することで強力な新規がん免疫療法を確立したいと考えています。さらに、原発性硬化性胆管炎から胆管癌に至るメカニズムを、本学腫瘍生物学講座 小川 誠司先生の教室との共同研究でゲノム解析と免疫解析を融合させるアプローチで解明を試みています。

ヒト自己免疫疾患での免疫寛容機構の破綻

自己免疫疾患は自己に対する免疫寛容機構の破綻によって自己抗原に対する抗体やT細胞による免疫応答が誘導され、組織障害が起こることにより発症します。様々な動物モデルを用いた自己免疫研究は世界中で行われていますが、ヒト組織検体を用いた炎症部位局所での免疫応答の解析はあまり進んでいません。本研究では臨床免疫内科、整形外科、脳神経内科などと連携し、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、視神経脊髄炎など症例での組織、血液、髄液検体を用いた基礎的、臨床的免疫研究を展開します。疾患病理と直接関連する免疫細胞の同定、同細胞を標的とした新規バイオマーカーの確立、新規治療法の導出などを目標としています。さらに、パーキンソン病に対してどのように免疫機構が関与するか、脳神経内科との共同研究を行っています。

小児アレルギーとT follicular helper細胞サブセット

アレルギーは国民の半分以上が罹患している国民病の一つです。小児アレルギーはアレルゲン特異的IgE産生を介したI型アレルギーによる疾患で、重症では重篤なアナフィラキシー反応を引き起こします。最近数年のマウスを用いた研究で、濾胞性ヘルパーT細胞がアレルゲン特異的IgE産生に中心的な役割を果たしていることが分かってきました。マウスでの知見がどのようにヒトに応用できるかはまだ明らかではありません。本プログラムでは小児科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科などと連携し、ヒト小児アレルギーに直接関与する濾胞性ヘルパーT細胞サブセットの同定、基礎的解析、およびこの細胞の分化経路の解明を目的とした研究を行います。疾患では食物アレルギーの一つである卵アレルギーに注目、患児から定期的に血液検体を採取しています。さらに、本学高等研究院の平岡裕章先生の教室とも連携し、数理モデルを用いたヒトT細胞分化経路解析方法の確立も目的としています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における抗原特異的免疫応答

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症 (COVID-19)は2019年末に中国、武漢から発生後パンデミックに至り、私たちの暮らしを一変させました。COVID-19は基礎疾患のある高齢者で重症化、死亡する確率が高い一方、若年者では無症状に終わる症例も少なくありません。この臨床症状の違いの原因となる免疫応答がどのように異なるのか未だに明らかではありません。本研究ではSARS-CoV-2特異的T細胞、B細胞の質と量を解析し、COVID-19重症化メカニズムを明らかにします。私たちは感冒コロナウイルスで誘導された免疫応答がどのようにCOVID-19での病態に関与するか、様々な手法で研究を行っています。さらに、ベトナム (長崎大学熱帯医学研究所ベトナム拠点)、アメリカ(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の研究者と連携し、SARS-CoV-2特異的免疫応答が国によってどのように違うのかを明らかにします。COVID-19の人口当たり死亡率はアジアで低く、欧米で高いという現象は2020年から継続しており、この原因として少なくとも一部は免疫応答の質と量の違いによるのではないかと考えています。

さらに、COVID-19では多くの後遺症患者が出ていますが、そのメカニズムは解明されていません。欧米では、後遺症患者がワクチンを接種することで症状が軽快する症例も多く報告されています。私たちはSARS-CoV-2特異的T細胞の質と量が後遺症の様々な症状と関連するのではないか、との仮説の下、研究を進めています。

基礎的ヒト免疫研究

ヒト免疫細胞そのものにもまだ謎が多く残っています。ヒトNaïve CD4+ T細胞がどのような多様性を持っているのか、その多様性がどのような機能の違いに結び付いているのか、遺伝子解析、エピゲノム解析、数学的解析を用いて明らかにします。また、PD-1シグナルがヒトCD4+ T細胞の機能にどう影響するか、様々なアプローチから研究しています。

さらに近年、疾患の原因となる特定の遺伝子変異が多く発見されている。私たちはびまん性軸索スフェロイドをともなう遺伝性白質脳症(ALSP;CSF1Rの変異)や家族性地中海熱 (MEFVの変異)において、遺伝子変異がどのように疾患発現に関与するかiPS細胞などを使った研究で解明を試みています。